林 千絵のコラム
しおさい日記
第二話
「散歩」
わたしは制作が一段落すると、よく海に散歩に行きます。日の傾きかけた浜辺ではいつも、
いろいろな人が好きなように時間を過ごしています。
犬を連れて散歩するご婦人、サッカーをしている少年、波乗り後のサーファー・・・
たまにその人たちに混じってちょっと風変わりな人を見かけることがあります。
去年の春の夕方のこと。制作後、気持ちの良い風を浴びながら海沿いの道を歩いていると
小太りのぶち猫が一匹、前を歩いていることに気がつきました。
ここ一帯の防砂林にはたくさんの野良猫が住み着いていているのでその猫もその中の一匹だろうと思い、
「かわいいね、こちらにおいで」としゃがみ込んで声をかけました。
すると猫は怯えたように立ち止まり「え、なにこの人馴れ馴れしいわ」という迷惑そうな表情をしたかと思うと前を歩いている男性の方に向かって助けを求めるように「にゃあ」と鳴きました。
すると前を歩いていた男性は立ち止まってくるりと振り向くと、じろりとわたしを睨みつけ
「ほら、タマ、行くぞ」とボソッと言いました。
すると猫はまるで夫に付き従う妻のようにタタタ、と男性のそばに行き、二人で仲良く歩いて行ってしまったのです。(首にリードがつけられているわけでもありません)
わたしは呆気に取られたまま、仲良く並んで歩いていく二人の後ろ姿をいつまでも見つめていました。
猫って一緒に散歩できるんだ……
それはわたしの「猫は人間の言うことなどきかない高貴で自由な存在だ」と言う常識を覆す衝撃的なできごとでした。
それ以来わたしも折に触れうちの猫に「ほら、梅、こちらにおいで」などと声をかけてみますが、彼女はいつも面倒くさそうに薄目を開けるばかりで微動だにしません。
(文・木口木版 林 千絵)
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第一話はこちら
林 千絵
Chie Hayashi
小説や詩など文学に触発された作品が多数あります。
また、現実と夢の狭間に浮かぶ遠い記憶をたぐり寄せて作品にしています。
木口木版を中心に水彩画など2007年より制作発表。
東京、神戸、大阪を中心に個展、グループ展、
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