
林 千絵のコラム
しおさい日記
第三話
「虹の在り処」

最近は温暖化の影響なのか、突然の激しい雨や雷が多くなったように思います。
今年の夏も昼間、炎天にさっと雲がかかったと思うと急に雨が降り、そのあと空に大きな虹がかかりました。青い空に薄くにじむ七色の光。その光を見つめながら私は幼いころのある光景を思い出していました。
小学一年生くらいの頃だったでしょうか、夕立のあと空にかかった虹を見ていた私はふと
「虹のはじまるところに立ってみたい」と思ったのです。
「虹はどこから生えているんだろう?」「光は温かいのか、それとも冷たいのかな?」「虹の上に乗って渡ることはできるのかしら?」
七色の光に包まれてうっとりする自分を想像し、いてもたってもいられなくなった私は突然虹の見える方角へと走り出しました。
虹が消えてしまわないうちに早く、早く、もっと早く。
虹のはじまるところに向かって私は懸命に走り続けました。しかし虹はみるみるうちに薄くなり跡形もなく消えてしまいました。その時の絶望感と言ったら…
しょんぼりと肩を落として歩きながら私は「次はもっと早く走ろう」と心の中でつぶやいていました。
それ以来私は虹を見ると走り出すようになりました。でもどんなに頑張って走っても虹は私に近づくことを許さず、あっという間に消えてしまいました。
あれから長い月日がたち、大人になった私は虹を見ても走ることはなくなりました。しかし今でも虹を見ると、あの夏の日息を切らせて走っていた自分の心臓の音がトクトクと耳によみがえるのです。
(文・木口木版 林 千絵)
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林 千絵
Chie Hayashi
小説や詩など文学に触発された作品が多数あります。
また、現実と夢の狭間に浮かぶ遠い記憶をたぐり寄せて作品にしています。
木口木版を中心に水彩画など2007年より制作発表。
東京、神戸、大阪を中心に個展、グループ展、
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