
林 千絵のコラム
しおさい日記
第四話
「どろぼうの窓」
中学生になるまで築100年の古い木造の家に住んでいました。
それだけ年月を経た家はさすがに建付けも悪く、木枯らしが吹く季節になるとあちらこちらからすきま風が吹き込みふるえるほどの寒さ、そのおかげで冬になると私の手足はしもやけで真っ赤になっていました。
なかでも縁側に続く大きなガラスの入った引き戸には鍵のまわりに大きなひびがあり、簡易的にセロテープで補修してあったのですが、風の強い日などはその隙間からピューピューと音を立てて風が流れ込んできました。
祖母によるとそのひびは昔泥棒一味に押し入られたときの跡だということで、ガラスが特注の高価なものだった為なかなか直すこともできず、セロテープを貼って間に合わせたままなんとなくそのままになってしまっているようでした。
今思えばずいぶん不用心なことですが、当時の防犯意識は今よりずっと低かったように思います。(うちの家族が皆適当な性格だっただけかもしれませんね…)
私は祖母からその泥棒に入られたときの話を聞くのが大好きでした。
押し入った泥棒は「銀次」という親分が率いる一味で、仲間の一人の頬に大きな三日月のような刀傷があったとか、大人は皆紐でぐるぐる巻きに縛られてしまったとか、その時の様子を何度もねだっては聞いていました。
なかでも一番好きだったのは、時計に履物、靴と家の中のものを洗いざらい持っていこうとする泥棒に、祖母が声を震わせながら「後生だから子供が明日学校に着ていく服だけは残してくださいな」
と頼むと、ちゃんと子供の服だけは残していってくれたというくだりでした。
普段は物静かな祖母の母としての気丈なふるまいと泥棒が見せた人情。犯罪ではあるけれどもそこには人間らしいドラマがありました。
今でも木枯らしの吹く季節にふとあのひび割れたガラス戸を思い出すとき、瞼の裏で泥棒の頬の傷がピカピカと三日月のように光ります。
(文・木口木版 林 千絵)
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林 千絵
Chie Hayashi
小説や詩など文学に触発された作品が多数あります。
また、現実と夢の狭間に浮かぶ遠い記憶をたぐり寄せて作品にしています。
木口木版を中心に水彩画など2007年より制作発表。
東京、神戸、大阪を中心に個展、グループ展、
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