小池結衣6回目コラム



小池結衣のコラム

「ぶれる日々」

 


ぶれず迷わず潔い。

若い時はこれがかっこよかった。

しかしこれは時に、

反省しない、視野が狭い、思考停止、を意味する。



ぶれて迷って往生際悪く生きるのも悪くない。


 



第6回

「くよくよ





車窓より

「車窓より」

メゾチント

イメージサイズ 174×145mm
シートサイズ 294×234mm


ed.30  2023年

シート税込¥16,500


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第6回

「くよくよ
 

   

くよくよするのが好きです。くよくよするな、と言う人、申しわけありません。しかし勝手ながら、私はくよくよいたします。

猫を1匹飼っています。黒猫で、女の子です。ものすごくかわいいのです。小さいうちに、避妊手術を済ませました。本当は、避妊手術なんか、したくなかったのです。こんなかわいい猫です。ぜひとも遺伝子を残したかった。そしてきっと彼女自身、子猫を産みたかったでしょう。母猫が子猫を育てている時の、あの幸せそうな表情。それを一度も味わわせないまま、一生涯経験できなくさせてしまったのです。ひどい飼い主です。しかし、手術をしないという選択肢はありませんでした。私に甲斐性がないので、何匹も飼えません。たった一度だけでも、出産を経験させてやりたい、そうも思いました。しかし、彼女が一度だけ出産を許されるとして、それならその子供たちにもそれぞれ一度ずつ出産を経験させてやれなければ、全くなんの意味もないではありませんか。そしてその子供や、そのまた子どもたちにも。そうでなければ、私自身が猫の出産と子育てを間近に見てみたいという、たんなる好奇心、わがままを、猫のためなどと言い訳しているにすぎません。日本中の保健所で、毎年無数の猫が殺処分されています。それなのに猫を増やすべきでしょうか。私の猫が産んだ子を、全部は飼えないから誰かに引き取ってもらうとして、その人は、もし私から猫を受け取らなかったら、かわりにどこかの保護猫を引き取っていたかも知れません。私の猫が産んだ子を飼うことによって、その保護猫は救われる機会を失い、殺処分となってしまうのかもしれません。そんな、保護猫の生きるチャンスをわざわざ奪うかもしれない行為を、自分の満足のためにするべきでしょうか?いいえそんなことできません。ですから、彼女が生後半年のいたいけな子猫の時、避妊手術をしました。思えばひどい飼い主です。ええもちろん、避妊手術が最善の選択です。それでもひどい飼い主にはかわりありません。ごめんなさいね、ごめんなさいね、としじゅう猫に謝っています。他に選択肢はなかったからと言って、開き直ることは私にはできません。それでいつも猫にすまない気持ちでいっぱいなのです。まわりにくよくよする人がいるとうっとうしいでしょう、わかります。申しわけありませんね。しかしくよくよさせて頂きます。生産性ですか?もちろんありませんよ。それが何か?

 

――いくら人間だって、そういつまでも栄える事もあるまい。まあ気を永く猫の時節を待つがよかろう。――夏目漱石「吾輩は猫である」より


(版画作品と文. 小池結衣)


 


 

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