林 千絵のコラム
しおさい日記
第六話
「夢の汀」
幼い頃というのはまだ魂があやふやな場所ーこの世とあの世の境目あたりにあるのでしょうか、妖精や幽霊のようなものが見える子供は案外多いそうです。
そういった現象に「イマジナリーフレンド」という言葉もつけられているようで、
かく言う私も中学生になるまである不思議なものが見えていました。
夜寝る時に布団の中に入りじっと部屋の隅の暗闇に目を凝らします。
すると暗がりの中から極彩色の模様―曼荼羅のような円形や幾何学模様が現れて、
クルクルと高速で回転しながら目の前を近づいたり遠ざかったりしているのが見えました。パチパチとまばたきをすると模様の色も変わります。
「次はどんな模様になるのかしら」と、その回転する模様を楽しく眺めながら眠りにつくのが常でした。
私はその時間を「暗闇遊び」と名付けて、寝る前のごく自然な儀式として受け入れていました。
一度母に打ち明けたことがあるのですが、夢みがちな子供の空想と思われたようでまともに取り合ってもらえません。皆見えるものと思っていた私はとてもショックを受け、それ以来誰かに話すこともなく「暗闇遊び」は自分だけの秘密の遊びになっていました。
大人になってその出来事もすっかり過去の記憶になっていたのですが、
最近ふとS N Sでこのことを書いたら、たくさんの方から「自分も同じようなものが見えていた」とメッセージをもらいました。
あの不思議な体験をしていた子供が他にもいたなんて!
私は分かり合えたことが嬉しくて興奮しました。
とはいえ暗闇に見えたあの回転する模様が一体何だったのかはいまだに謎です。
もし小さな子供がぼんやり空を見つめていたらその瞳にはなにか素敵なものが映っているのかもしれませんね。
(文・木口木版 林 千絵)
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林 千絵
Chie Hayashi
小説や詩など文学に触発された作品が多数あります。
また、現実と夢の狭間に浮かぶ遠い記憶をたぐり寄せて作品にしています。
木口木版を中心に水彩画など2007年より制作発表。
東京、神戸、大阪を中心に個展、グループ展、
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