小池結衣のコラム　「ぶれる日々」　第14話

小池結衣のコラム

「ぶれる日々」

ぶれず迷わず潔い。

若い時はこれがかっこよかった。

しかしこれは時に、

反省しない、視野が狭い、思考停止、を意味する。

ぶれて迷って往生際悪く生きるのも悪くない。

第14回

「ワークショップ報告」

コラム第14回作品Sanctus

「Sanctus」

メゾチント

イメージサイズ 175×145mm

ed.30 　2025年
シート税込￥16,500

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第14回

「ワークショップ報告」

ワークショップをさせていただきました。題して「見えないものを描いてみよう」。

西宮市大谷記念美術館でのボローニャ国際絵本原画展の関連企画で、入選者に打診が届き、美大も出ていない無名作家の私が美術館でワークショップというものができるとは思っていなかった上に、コンセプトに「参加者全員が主役」とあったこと、美術館側と打ち合わせながら細部を詰める想定で、これなら人に教えるほどの画力も技術もない私でもできるのではと、突然現代美術のスイッチが入り。人前で話すのは苦手なはずが、勢い込んで手を挙げました。

目に見える星はほんの一部だったり、夜景のあかり一つ一つに喜びやかなしみがあったり、人にはそれぞれ人の知らない事情があったり。「見えないもの」はたくさんあるというメッセージと、メゾチント技法における、準備の目立てに時間がかかることやインクが乗らずに紙の色が見えることで絵を描くイメージを組み合わせ、「見えないもの」の絵を描いて、穴をあけた黒い紙でそれを隠し、裏から光を当て夜空を作る。星の穴から、よく見えないけど何かが描いてあるのはわかるので、見る人にも「見えないもの」について考えてもらおうというコンセプトのインスタレーションにしました。

「美術館でワークショップをします！」「メゾチント？」「じゃないです」「何をするの？」「え～と…」人に聞かれても本人がうまく説明できず。会場の都合でわずか9組(一組4名まで)の募集ながら、そもそも一体何をやるのかもよくわからない募集で参加希望者は現れるのか？との懸念をよそに、美術館のこれまでの蓄積がものを言い、希望者が上回って抽選となりました。

当日の参加者は24名、そのうち10名ほどが小学生で、最年少は7歳でした。

はじめに広大な宇宙には「中心」も「端」もないこと、私が思う「見えないもの」について、PowerPointなるものを初めて使って説明したあと、参加者それぞれが考える「見えないもの」を付箋に書いて会場正面に貼ってもらい、共有しました。計画ではもっと「見えないもの」について話し合う時間をとる予定でしたが、参加者が既にそれぞれ「見えないもの」についてイメージがあり描く準備は万端と思えたので、すぐに描き始めてもらいました。A5サイズのトレーシングペーパーに、透明折り紙、油性ペン、ポスカ、水彩絵の具など、好きな画材で「見えないもの」をそれぞれ描きたい数だけ描いてもらい、それを繋げて窓ガラスに設置、そのあとA5の黒画用紙に星の穴をくり抜き、これも繋げて「見えないもの」に重ねました。初心者講師の不手際や準備不足で想定外のことがたくさんあり、２時間の予定を30分も超過して参加者と美術館にご迷惑をおかけしてしまったのですが、想定外と言えばその仕上がりで、そもそも星の紙はランダムに繋げ、どの絵のどの部分が穴から覗くかは全くの偶然という計画であり、カネゴンの口元が覗いて惑星の縞模様のように見えたりしたのは「こういうのを求めていた！」とにやりとしましたが、水彩絵の具は薄めて使用してほしいと言うのを忘れ、絵具を載せた紙を二つに折って広げたものがすごくきれいだったり、星の形と言っているのに！鮮やかなカッターさばきで別の形にくり抜いた人に内心ムッとしながら、設置してみればこれが思わぬアクセントになって美しかったり、事前に講師が作成していたものが一番つまらなかった事がうれしかったり。私が想定していたものよりもはるかにきれいな夜空ができたのでした。こうするべきと思っていたのが思い通りにいかず、それが逆に良い効果を産み、こんなぶれ方をしたかったのです。たいへんよい経験をさせていただきました。

（版画作品と文. 小池結衣）

ワークショップの様子が
小池結衣さんのインスタグラムで紹介されています。
記事はこちら（ワークショップの写真は投稿2枚目から）
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https://www.instagram.com/p/DOqF_2nk7NG/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=ZHpwcTZ5ZHR5MDJn

小池結衣コラム第1回はこちら
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